なぜドイツ車は”走りが良い”と言われるのか?|日本車との技術比較
「ドイツ車は走りが良い」「一度乗ったら日本車には戻れない」——そんな言葉を耳にしたことはありませんか?
しかし、具体的に何が違うのかを明確に説明できる人は意外と少ないものです。漠然とした「質感」や「高級感」といった感覚的な言葉でしか語られないことも多いでしょう。
この記事では、BMW、メルセデス・ベンツ、アウディといったドイツ御三家と、トヨタ/レクサス、マツダ、ホンダといった日本車の技術的な違いを徹底解説します。
サスペンション設計、重量配分、ステアリングフィール、エンジン特性——あらゆる角度から「走りの違い」の正体に迫ります。
1. “走りが良い”とは何か?——まず定義を明確にする
「走りが良い」という言葉は極めて主観的です。まずは何をもって「走りが良い」とするのか、その基準を整理しましょう。
ドイツ車が評価される主な要素
- ステアリングレスポンス:ハンドル操作に対する車の反応速度と正確性
- ボディ剛性感:一体感のある、ガッチリとした感覚
- 高速安定性:アウトバーンを200km/hで巡航できる安心感
- 路面追従性:凹凸を吸収しながらタイヤが路面に張り付く感覚
- ダイレクト感:入力に対する遅れのない、機械的な結びつき
日本車が評価される主な要素
- 静粛性:エンジン音や風切り音、ロードノイズの少なさ
- 乗り心地:柔らかく、フワッとした快適な感覚
- 扱いやすさ:誰でも運転しやすい穏やかな特性
- 信頼性:故障しない、メンテナンスコストが低い
- 燃費性能:実用域での優れた経済性
2. サスペンション設計——最大の違いはここにある
「走りの違い」を最も大きく左右するのがサスペンション設計です。ここに各メーカーの設計思想が最も色濃く現れます。
BMW:5リンク式サスペンションの真髄
BMWの技術的特徴
- リア5リンクサスペンション:タイロッドを5本使用してホイールの動きを精密制御
- 方向別硬さのブッシュ:前後方向には柔らかく、左右方向には硬く設定
- アルミ製アーム:バネ下重量を徹底的に削減(3シリーズで約15kg軽量化)
- アダプティブMサスペンション:走行モードに応じて減衰力を瞬時に変更
BMWの5リンクサスペンションは、コーナリング中のタイヤの向き(トー角)を積極的に制御することが最大の特徴です。
通常のサスペンションでは、コーナリング時の荷重移動でタイヤが意図しない方向を向いてしまいますが、BMWは5本のリンクで常に最適な角度を維持します。これが「狙ったラインをトレースする」感覚の正体です。
メルセデス・ベンツ:マルチリンク+エアサスペンション
メルセデスの技術的特徴
- 4リンク/5リンクマルチリンク:車種に応じて最適化
- エアマチックサスペンション:空気バネによる乗り心地と車高調整
- マジックボディコントロール:路面を予測して減衰力を事前調整
- 大型ブッシュ:快適性を重視した設定
メルセデスの設計思想は「快適性とスポーツ性の両立」です。エアサスペンションにより、高速巡航時は車高を下げて安定性を高め、低速時は車高を上げて乗り心地を確保します。
特にSクラスの「マジックボディコントロール」は、フロントカメラで路面を読み取り、凹凸が来る前にサスペンションを調整する先進技術です。
アウディ:quattro専用サスペンション
アウディの技術的特徴
- 5リンクサスペンション:quattroのトラクションを最大限引き出す
- アダプティブエアサスペンション:スポーツモードで最大20mm車高ダウン
- ダイナミックオールホイールステアリング:後輪も最大5度操舵
- プログレッシブステアリング:速度に応じて舵角を変化
アウディのサスペンションはquattroの4WDシステムと一体設計されています。4輪すべてに最適なトラクションを配分するため、サスペンションは常にタイヤを路面に押し付ける役割を担います。
トヨタ/レクサス:ダブルウィッシュボーン+AVS
トヨタ/レクサスの技術的特徴
- ダブルウィッシュボーン:高級車・スポーツカーに採用
- ダブルジョイントマルチリンク:レクサスLSで初採用(2006年)
- AVS(電子制御可変ダンパー):走行状況に応じて減衰力を調整
- KDSS(油圧式アクティブスタビライザー):ランドクルーザーなど
トヨタ/レクサスのサスペンションは「信頼性」と「快適性」を最優先しています。ダブルウィッシュボーン式を採用しつつも、ブッシュの設定はドイツ車より柔らかく、路面からの衝撃を優しく吸収します。
レクサスLSの「ダブルジョイントマルチリンク」は、上下のアームを各2本のIアームで構成し、ブレーキ振動を大幅に低減することに成功しています。
マツダ:人馬一体のサスペンション哲学
マツダの技術的特徴
- 4輪ダブルウィッシュボーン:ロードスターの伝統
- マルチリンク:CX-5、CX-8など
- 人間中心設計:体の重心を意識した設計
- 微小入力への応答性:日常域での扱いやすさ重視
マツダの「人馬一体」思想は、サーキットでの限界性能ではなく、日常運転での「思い通りに動く」感覚を追求しています。
ハンドルやペダルの微小な動きに対しても正確に反応し、ドライバーの意図とクルマの動きが一致することで、安心感と一体感を生み出します。
ホンダ:軽量・高剛性のサスペンション
ホンダの技術的特徴
- ダブルウィッシュボーン:シビック タイプRなど
- マクファーソンストラット:コンパクトカー
- 軽量化へのこだわり:アルミ製アーム多用
- 高剛性ボディ:サスペンション性能を最大化
ホンダのサスペンションは「軽量・高剛性」が特徴です。NSXやシビック タイプRで培った技術を、一般車にもフィードバックしています。
| メーカー | サスペンション方式 | 設計思想 | 特徴 |
|---|---|---|---|
| BMW | 5リンク(リア) | 精密な制御 | トー角制御、方向別ブッシュ |
| メルセデス | マルチリンク+エアサス | 快適性とスポーツ性 | マジックボディコントロール |
| アウディ | 5リンク+quattro | トラクション最大化 | 4WS、エアサス |
| レクサス | ダブルジョイントML | 信頼性と快適性 | AVS、静粛性重視 |
| マツダ | ダブルWB/ML | 人馬一体 | 日常域の扱いやすさ |
| ホンダ | ダブルWB/ストラット | 軽量・高剛性 | スポーツ性能重視 |
3. 重量配分——FR vs FFの根本的な違い
ドイツ御三家:FRへの強いこだわり
BMW 3シリーズ、メルセデス Cクラス、アウディ A4(quattro)は、いずれも50:50に近い前後重量配分を実現しています。
- BMW 3シリーズ:前48.9% / 後51.1%(FR)
- メルセデス Cクラス:前49.5% / 後50.5%(FR)
- アウディ A4:前54% / 後46%(quattro、エンジン縦置き)
理想的な重量配分により、コーナリング時の荷重移動が自然で、ドライバーが車の動きを予測しやすくなります。
FRレイアウトの利点
- 前後重量配分の最適化が容易
- ステアリングと駆動を分離(フロントタイヤの仕事が減る)
- アクセルでリアを滑らせてコーナリングを調整可能
- 直進安定性が高い
日本車:FFが主流の理由
トヨタ カムリ、ホンダ アコード、マツダ アテンザなどはFFレイアウトを採用しています。
- トヨタ カムリ:前61% / 後39%(FF)
- ホンダ アコード:前62% / 後38%(FF)
- マツダ アテンザ:前60% / 後40%(FF)
FFレイアウトの利点
- 室内空間を広く取れる(プロペラシャフト不要)
- 製造コストが低い
- 雪道でのトラクションに優れる(重いエンジンが駆動輪上)
- 燃費に有利(駆動ロスが少ない)
ただし、レクサスの高級車(LS、RC、LC)や、マツダ ロードスターはFRを採用しており、日本メーカーもスポーツ性を重視する車種ではFRを選択しています。
4. ステアリングフィール——油圧 vs 電動の違い
ドイツ車:油圧パワステの残存
近年、多くの車が電動パワーステアリング(EPS)に移行していますが、ドイツ車の一部モデルは油圧パワーステアリング(HPS)を長く採用してきました。
- BMW 3シリーズ(E90世代まで):油圧パワステ
- ポルシェ 911(991世代まで):油圧パワステ
- アウディ R8(初代):油圧パワステ
油圧パワステの特徴
- 路面からのダイレクトなフィードバック(油圧の”粘り”が情報を伝える)
- ステアリング中央付近の「遊び」が少ない
- 高速域でもしっかりとした手応え
- 燃費性能では電動に劣る(常にポンプが回転)
日本車:電動パワステへの早期移行
日本車は2000年代から電動パワステ(EPS)へ積極的に移行してきました。
電動パワステの特徴
- 燃費性能に優れる(必要な時だけモーターが作動)
- 軽い操舵力(低速時)で扱いやすい
- 先進運転支援システム(ADAS)との連携が容易
- フィードバックは油圧より”軽い”印象
ホンダは電動パワステの制御技術に優れ、シビック タイプRなどでは油圧に迫るフィーリングを実現しています。
最新のドイツ車も電動化
現在では、BMW、メルセデス、アウディもほぼすべてのモデルが電動パワステに移行しています。ただし、ドイツメーカーは電動でも「ダイレクト感」を損なわない制御に注力しています。
- BMW:セレクトロニック・パワーステアリング(制御マップの最適化)
- メルセデス:スピードセンシティブステアリング(速度に応じた操舵力調整)
- アウディ:プログレッシブステアリング(舵角に応じたギア比可変)
5. エンジン哲学——回すか、トルクか
ドイツ車:低回転域の分厚いトルク
ドイツ車のエンジンは、低回転域から太いトルクを発生させる設計が特徴です。
- BMW 320i(B48エンジン):1,350-4,600rpmで300Nm
- メルセデス C200(M264エンジン):1,800-4,000rpmで320Nm
- アウディ A4 40 TFSI:1,600-4,500rpmで320Nm
これにより、アクセルを軽く踏むだけで力強い加速が得られ、高速道路の追い越しや坂道でもストレスがありません。
ドイツ車エンジンの技術的特徴
- ターボチャージャー:小排気量でも大トルクを実現
- ツインスクロールターボ:低回転からブースト
- 直噴技術:燃焼効率の向上
- 8速/9速AT:エンジンを常に最適回転数に保つ
日本車:高回転まで気持ちよく回る
日本車、特にホンダのVTECエンジンは高回転域まで滑らかに吹け上がる特性が魅力です。
- ホンダ シビック タイプR(FK8):2.0L VTECターボで320PS / 7,000rpm
- マツダ ロードスター:2.0L SKYACTIV-Gで184PS / 7,000rpm
- レクサス IS500 F SPORT Performance:5.0L V8で472PS / 7,100rpm
ホンダVTECの仕組み
VTECは回転数に応じてカムを切り替えることで、低回転と高回転の両方で最適な吸排気を実現します。
- 低回転:小さなカムで燃費重視
- 高回転:大きなカムでパワー重視
- 5,000rpm前後で切り替わる「VTECサウンド」が特徴
トヨタの直4エンジンやマツダのSKYACTIV-Gエンジンも、高回転域での伸びを重視した設計です。
| 特性 | ドイツ車 | 日本車 |
|---|---|---|
| トルク特性 | 低回転から分厚い | 中・高回転で盛り上がる |
| 最大トルク回転数 | 1,500-2,000rpm | 4,000-5,000rpm |
| レッドゾーン | 6,500rpm前後 | 7,000-7,500rpm |
| 加速感 | ズドンと力強い | スーッと伸びる |
| 向いてる走り方 | 高速巡航、追い越し | ワインディング、回す楽しさ |
6. 日本車の強み——技術だけでは語れない価値
ここまでドイツ車の技術を中心に解説してきましたが、日本車にはドイツ車にはない圧倒的な強みがあります。
信頼性と耐久性
トヨタ/レクサスの信頼性は世界トップレベル
- アメリカの調査会社J.D. Powerでレクサスは12年連続1位(2001-2012)
- 10万km、20万kmでも問題なく走り続ける耐久性
- リセールバリューが高い(ランドクルーザーは新車価格以上で売れることも)
- メンテナンスコストが低い
ドイツ車は7-10万kmで大きな修理が必要になるケースが多く、維持費の差は10年で200-300万円に達することもあります。
静粛性
レクサスLSやトヨタ クラウンの静粛性は、メルセデス Sクラスに匹敵します。
- レクサスLS500h:58dB(100km/h巡航時)
- トヨタ クラウン:59dB
- メルセデス S400d:57dB
日本車はエンジン音、ロードノイズ、風切り音すべてを徹底的に抑えることに注力しています。
燃費性能
ハイブリッド技術では日本車が圧倒的です。
- トヨタ プリウス:最大32.6km/L(WLTCモード)
- ホンダ アコード ハイブリッド:22.8km/L
- レクサス ES300h:22.3km/L
ドイツ車のプラグインハイブリッドは短距離EV走行に強いですが、長距離の実用燃費では日本のハイブリッドが優位です。
コストパフォーマンス
同じ価格帯での装備差
例:500万円のセダンを比較
- BMW 320i:素の状態、オプション多数必要
- レクサス IS300h:ハイブリッド、本革シート、LEDヘッドライト標準
同じ予算でも、日本車の方が装備が充実しています。
7. どちらを選ぶべきか?——用途による選択
ドイツ車を選ぶべき人
- 運転が好きで、ステアリングフィールやコーナリング性能を楽しみたい
- 高速道路を頻繁に使う(年間1万km以上)
- 維持費を気にしない、または正規ディーラーのサポートを重視
- ブランド価値やステータスも重視したい
- メカニカルなダイレクト感が好み
日本車を選ぶべき人
- 故障リスクを最小化したい(家族の送迎、営業車など)
- 維持費を抑えたい(10年以上乗る予定)
- 燃費性能を重視(通勤メイン、年間2万km以上)
- 静粛性と快適性が最優先
- リセールバリューを考慮
「ドイツ車vs日本車」は優劣ではなく、適材適所
週末のドライブを楽しみたいならBMW 3シリーズ、毎日の通勤で使うならレクサス IS300h、家族4人で快適に移動したいならトヨタ アルファード——用途によって最適な選択は変わります。
8. ハイブリッド選択肢——マツダとレクサスに注目
マツダの「人馬一体」を感じたいなら
ドイツ車のダイレクト感に近い運転感覚を、日本車の信頼性で手に入れたいならマツダが最適です。
- マツダ CX-5 / CX-60:SKYACTIV-D(ディーゼル)で力強いトルク
- マツダ3:SKYACTIV-Xで欧州車に近いフィーリング
- マツダ ロードスター:軽量FRで純粋な運転の楽しさ
レクサスの高級感+走行性能
静粛性と快適性を維持しつつ、走行性能も欲しいならレクサスです。
- レクサス IS500 F SPORT Performance:5.0L V8でドイツ車を超える加速
- レクサス LC500:スーパークーペとしての走行性能
- レクサス RC F:サーキット走行も可能な本格スポーツ
結論:技術の違いを理解して、自分に合った選択を
ドイツ車は「ドライバーとの対話」を重視した機械、日本車は「乗員全員の快適性」を重視した道具です。
サスペンション設計、重量配分、ステアリングフィール、エンジン特性——すべてにおいて設計思想が異なります。
どちらが優れているかではなく、あなたの使い方に合っているかが重要です。
この記事で解説した技術的な違いを理解した上で、試乗して自分の感覚で確かめてください。きっと、あなたにとって「最高の一台」が見つかるはずです。
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