ドイツ車ディーゼルは本当に終わったのか?
BMW・メルセデス・アウディが2025年に見せた「意外な選択」
「ディーゼル終了」の報道、しかし現実は?
「2035年にガソリン車・ディーゼル車の新車販売禁止」「エコカー減税からディーゼル除外」──こうしたニュースを目にすると、ドイツ御三家のディーゼルエンジンはもう終わったと思うかもしれません。
しかし2025年12月現在、BMWは小型車のディーゼルを終了させた一方でX2にディーゼルを復活させ、メルセデス・ベンツはディーゼルPHEVという新ジャンルを投入し、アウディは進化版V6 3.0L TDIを発表しました。
2025年の規制環境:「終了」は誤解だった
Euro7規制の延期という現実
2021年に発表された次世代排ガス規制「Euro7」は、当初2025年からの導入が予定されていました。しかし自動車業界からの強い反発により、乗用車は2027年、大型商用車は2029年へと延期されることになりました。
この延期の背景には、規制値自体は従来のEuro6を踏襲するものの、試験方法が実路走行試験(RDE)に変更され、極寒(-10℃)や猛暑(45℃)、短距離走行など、あらゆる条件での適合が求められることがあります。技術的な難易度が高く、開発期間が不足していたのです。
日本の2035年問題:実は「ディーゼル可能」
日本政府は「2035年までに新車販売をすべて電動車に」と宣言していますが、ここには重要な誤解があります。
一方、EUの2035年規制はより厳格で、ハイブリッド車も含めた内燃機関車の新車販売が禁止されます。この地域差が、各社の戦略に大きく影響しています。
エコカー減税除外の衝撃
2023年度から、従来エコカー減税の対象だったクリーンディーゼル車が除外されました。これは購入者にとって大きな負担増となり、「ディーゼル終了」の印象を強めた要因の一つです。
しかし実態として、長距離を走るユーザーにとっては、燃費の良さ(ガソリン比で20-30%向上)と軽油の価格差(1リットルあたり約20円安い)により、減税がなくても経済的メリットが残ります。
BMW:「選択と集中」戦略の全貌
2024年4月、小型車ディーゼル生産終了
BMWは2024年4月、以下のモデルでディーゼルエンジンの生産を終了しました:
- 1シリーズ(F40)
- 2シリーズ グランクーペ(F44)
- X1(U11)
- X2(U10)※この時点では
- X3(G01)の一部グレード
- X4(G02)の一部グレード
この決定は、「BMWはディーゼルから撤退」と報じられました。特にX3/X4では、ガソリン車のM40iしか残らず、売れ筋の中間グレードが消滅するという異常事態になりました。
しかし2025年9月、X2でディーゼル復活
ところが2025年9月、BMWは新型X2にディーゼルモデル「X2 xDrive20d」を追加しました。このエンジンは:
- 2.0L 直4ディーゼルターボ + 48Vマイルドハイブリッド
- システム出力:163PS / 40.8kgm
- 燃費:18.6km/L(WLTCモード)
- 価格:672万円(ガソリン車+26万円)
わずか1年での「復活」は、BMWがディーゼルを完全に諦めたわけではなく、戦略的に整理していたことを示しています。
大型SUVでは継続:X5/X6/X7
一方、大型SUVのX5、X6、X7では、ディーゼルエンジンが継続されています。これらには48Vマイルドハイブリッド技術が搭載され、モーターアシストによりスムーズな発進と燃費向上を実現しています。
メルセデス・ベンツ:高級化×電動化の両輪戦略
OM654Mエンジン:進化を続けるディーゼル
メルセデス・ベンツの最新ディーゼルエンジン「OM654M」(Mは”Modified”の意)は、2021年のCクラス(W206)から導入されました。先代のOM654から以下の改良が加えられています:
| 改良項目 | OM654(先代) | OM654M(最新) |
|---|---|---|
| 排気量 | 1,949cc | 1,991cc(+42cc) |
| 噴射圧力 | 2,000bar | 2,200bar(+200bar) |
| ターボ | 水冷VGターボ | 新型水冷VGターボ |
| 排気処理 | NOx触媒 + sDPF + SCR | 2基のNOx触媒 + sDPF + 2基のSCR |
| 電動化 | なし | 48V ISG(マイルドHV) |
特に注目すべきは、排気後処理装置の二重化です。エンジン近傍に2基のNOx吸蔵還元触媒を配置し、さらに車両下部にもう1基のSCR触媒を追加することで、Euro6d-ISC-FCMという最新規制に余裕を持って適合しています。
世界初のディーゼルPHEV:C 300 d e
メルセデス・ベンツは、ディーゼルエンジンとプラグインハイブリッドを組み合わせた「C 300 d e」を投入しています。このモデルの特徴は:
- システム出力:313PS(ディーゼル194PS + モーター129PS)
- EV走行距離:約100km
- 燃費:2.0L/100km(50km/L相当)※欧州値
- CO2排出:47g/km
日常の通勤はEVモード、週末の長距離ドライブはディーゼルモードという使い分けが可能で、「ディーゼルの航続距離」と「PHEVの環境性能」を両立させています。
「EVオンリー」宣言の裏側
メルセデス・ベンツは「2030年までにEVオンリーを目指す」と宣言していますが、内部では「ダブルプラットフォーム戦略」を採用しています。
つまり、公式発表は「EV推し」でも、現実的にはディーゼル(特にMHEV/PHEV化したもの)を当面継続する方針です。
アウディ:TDIブランドを守り抜く
2025年、A5 TDIの追加設定
アウディは2025年、新型A5(旧A4の後継)にTDIモデルを追加しました。搭載される「EA288 evo」世代の2.0L TDIエンジンは:
- 最高出力:204PS
- 最大トルク:400Nm(1,750-3,250rpm)
- MHEV plus テクノロジー(次世代48Vシステム)搭載
- 燃費:17.7km/L(WLTCモード)
「MHEV plus」は従来の48Vシステムより強力なモーターアシストを実現し、加速性能が大幅に向上しています。
V6 3.0L TDI進化版:299PSの高性能ディーゼル
さらにアウディは、Q5とA6向けに進化版V6 3.0L TDIを投入しました。このエンジンの特徴は:
- 最高出力:299PS
- 最大トルク:580Nm
- 48V MHEV + 電動コンプレッサー
- HVO100対応(バイオディーゼル燃料、CO2排出70-95%削減)
電動コンプレッサーは、S4/S6/SQ5で採用されている技術で、ターボラグを劇的に低減します。また、石油由来ディーゼルに代わるHVO100(水素化植物油)への対応により、「Well-to-Wheel」(油井から車輪まで)でのCO2排出を大幅削減できます。
ルマン24時間8勝の誇り
アウディがTDIにこだわる背景には、2006年から2016年まで続いたルマン24時間レースでの成功があります。
この「TDIブランド」は、quattroと並ぶアウディの技術アイコンであり、簡単には手放せない資産なのです。
3社の戦略比較:なぜ「完全撤退」しないのか
| メーカー | ディーゼル戦略 | キーテクノロジー | 狙い |
|---|---|---|---|
| BMW | 選択と集中 (小型車撤退、大型車継続) |
48V MHEV 5リンクサス |
「駆け抜ける歓び」を 大型車で継続 |
| メルセデス | 高級化×電動化 (PHEV化推進) |
OM654M デュアルSCR ディーゼルPHEV |
「最高か無か」を 環境性能でも実現 |
| アウディ | TDIブランド堅持 (技術進化継続) |
MHEV plus 電動コンプレッサー HVO100対応 |
「技術による先進」の 象徴を守る |
長距離・高速走行での優位性
3社がディーゼルを完全撤退させない最大の理由は、長距離・高速走行でのディーゼルエンジンの優位性です。
- 航続距離:満タンで800-1,000km走行可能(EVは現状300-500km)
- 充電時間:給油3分 vs 急速充電30-60分
- インフラ:ガソリンスタンド普及率100% vs 充電ステーション整備中
- 寒冷地性能:極寒でも航続距離低下なし(EVは30-50%低下)
特にヨーロッパでは、国境を越えた長距離移動が日常的であり、ディーゼルの需要は根強く残っています。
CO2規制との複雑な関係
意外に思われるかもしれませんが、ディーゼルエンジンはガソリンエンジンよりもCO2排出が少ないのです。
| パワートレーン | CO2排出(g/km) | 燃費換算 |
|---|---|---|
| ガソリン(2.0L) | 約140-160 | 14-16km/L |
| ディーゼル(2.0L) | 約110-130 | 18-22km/L |
| ディーゼルMHEV | 約95-115 | 20-24km/L |
| ディーゼルPHEV | 約50-70 | 30-40km/L相当 |
EU規制は「2025年にCO2排出95g/km以下」を求めていますが、ディーゼルMHEV/PHEVはこれをクリア可能です。つまり、規制対応のためにもディーゼルは有効なのです。
日本市場への影響:選択肢が減る現実
エコカー減税除外の衝撃
日本では2023年度からクリーンディーゼル車がエコカー減税の対象外となりました。これにより:
- 自動車取得税(購入時):減税なし
- 自動車重量税(購入時・車検時):減税なし
- 自動車税(毎年):減税なし
例えば500万円のディーゼル車の場合、約20-30万円の減税が消えたことになります。
それでも経済的メリットは残る
しかし年間2万km以上走行するユーザーにとっては、減税がなくても経済的メリットが残ります。
・ガソリン車:2万km ÷ 12km/L × 170円/L = 約28万円
・ディーゼル車:2万km ÷ 18km/L × 150円/L = 約17万円
→ 年間11万円の燃料費削減
3年で33万円、5年で55万円の差が出るため、長距離ユーザーには依然として魅力的です。
ラインナップの縮小
一方で、日本市場でのディーゼル車ラインナップは確実に縮小しています:
- BMW:小型車ディーゼル全廃、大型SUVと一部モデルのみ
- メルセデス:Cクラス以上で継続、AクラスやCLAは不明
- アウディ:Q5、Q7、A5で継続(今後の拡大は未定)
「欲しいモデルにディーゼルがない」という状況は、今後さらに増えそうです。
結論:ディーゼルは「終わらない」が「変わる」
2025年末の状況を総合すると、ドイツ御三家のディーゼルは「終了」ではなく「進化と選択」のフェーズに入っています。
3つの明確なトレンド
1. 電動化との融合が必須
48VマイルドハイブリッドやPHEVとの組み合わせにより、環境性能を大幅に向上。「純粋なディーゼル」から「ディーゼルハイブリッド」へ。
2. 大型車・長距離向けに集約
都市部の短距離移動はEVへ、長距離・高速走行はディーゼルへという棲み分けが進行。小型車では消えていく。
3. 技術の高度化が加速
排気後処理の二重化、電動コンプレッサー、バイオ燃料対応など、技術開発は続いている。「環境に悪いディーゼル」から「クリーンなディーゼル」への進化。
今後10年の展望
2035年のEU規制まで残り10年。この期間、ドイツ御三家は:
- EVラインナップを急速拡大(2030年に販売の50%以上)
- ディーゼルMHEV/PHEVを高級セグメントで継続
- 2030年代前半にディーゼル新規開発を終了
- 2035年以降は中古車市場とアフターサポートへシフト
つまり、「終わる」のは確実だが、それは段階的であり、当面は選択肢として残り続けるというのが現実です。
ユーザーへのメッセージ
もしあなたが年間2万km以上走り、高速道路や長距離移動が多いなら、今がディーゼル車を買う最後のチャンスかもしれません。ラインナップが縮小する前に、希望のモデルのディーゼル仕様を検討する価値は十分にあります。
一方、都市部での短距離移動が中心なら、EVやPHEVの方が経済的・環境的に優れています。
「ディーゼル終了」の報道に惑わされず、自分の使い方に合ったパワートレーンを冷静に選びましょう。
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