B57 vs OM656|直6ディーゼルはどちらが”工学的に上”か
直列6気筒ディーゼルエンジン。かつてはV6ディーゼルが主流だったが、排ガス規制の厳格化とともに、BMW、メルセデス・ベンツ、マツダが相次いで直6ディーゼルを復活させた。
その中でも、BMW B57とメルセデス・ベンツ OM656は、ドイツ御三家の技術力を結集した傑作エンジンだ。どちらも3.0L直6ディーゼル、340馬力前後、700Nm級のトルク。スペック表を見れば「似たようなエンジン」に見える。
しかし、エンジニアとして中身を見れば、設計思想は180度違う。BMWは「モジュラー設計とレスポンス」、メルセデスは「静粛性と排ガス浄化」。同じ直6ディーゼルでも、辿り着いた答えは全く異なる。
この記事では、2つのエンジンを工学的な視点で徹底比較する。
基本スペック比較|数値で見る両者の違い
| 項目 | BMW B57 | ベンツ OM656 / OM656M |
|---|---|---|
| 排気量 | 2,992cc | 2,925cc |
| ボア×ストローク | 84.0mm × 90.0mm | 不明(シリンダーピッチ90mm) |
| ボアストローク比 | 0.93(ロングストローク) | 推定0.95前後 |
| 最高出力(標準) | 195kW (265ps) / 4000rpm 35d |
250kW (340ps) / 3600-4200rpm S400d |
| 最高出力(高性能版) | 257kW (350ps) / 4400rpm M340d 48V |
OM656M: 出力向上 + 48V ISG GLE400d |
| 最大トルク(標準) | 620Nm / 2000-2500rpm | 700Nm / 1200-3200rpm |
| 最大トルク(高性能版) | 730Nm / 1750-2750rpm M340d |
700Nm + ISG 200Nm OM656M |
| 過給方式 | シングル / ツインターボ ※クワッドターボは生産終了 |
2ステージターボ (小ターボ側VGT) |
| ブロック材質 | アルミニウム | アルミニウム |
| ピストン材質 | アルミニウム | スチール |
| 最大噴射圧 | 250MPa → 270MPa(2020年改良) | 2500bar(250MPa) ピエゾインジェクター |
| 可変動弁機構 | VANOS(吸排気側) | カムトロニック(排気側のみ) |
| ハイブリッド | 48V MHEV(一部モデル) | OM656M: 48V ISG標準 |
| 搭載車種例 | X5 35d/40d, M340d, M440d ※M50dは生産終了 |
S400d, E400d, GLE400d, GLS400d |
BMW B57|モジュラー設計とレスポンスの追求
設計思想:「1気筒500cc」の徹底
BMW B57の最大の特徴は、B37(3気筒1.5L)、B47(4気筒2.0L)、B58(6気筒3.0Lガソリン)と完全に共通のモジュラー設計だ。ボア径84.0mm、ストローク90.0mm、ボアピッチ91mmを厳格に統一している。
技術的なポイント
- ボア×ストローク 84.0×90.0mm:B47(4気筒ディーゼル)と完全に同一。1気筒あたり498.7cc
- アルミブロック + アルミピストン:軽量化最優先。エンジン重量は推定190kg前後
- シーケンシャル・ツインターボ:低圧/高圧の2段階過給。低回転から高回転まで幅広いトルクバンド
- 270MPaピエゾインジェクター:2020年改良で噴射圧向上。燃焼効率改善
- 48V MHEV:M340dなど一部モデルに搭載。8kWのスタータージェネレーター
モジュラー設計のメリットとデメリット
B57のモジュラー設計は、生産効率とコストで圧倒的に有利だ。B47(4気筒)とシリンダーブロック、ピストン、コンロッドの設計を共有できるため、開発費・生産コストを大幅に削減できる。
しかし、この設計には制約もある。ボア径84.0mmは、3.0L直6としてはやや小さい。排気量を稼ぐためにストローク90.0mmのロングストローク設計としているが、これにより平均ピストンスピードが高くなり、高回転での出力を伸ばしにくい。
クワッドターボの終焉と48V化
B57の歴史で語られるべきは、B57S型クワッドターボ(4連装)の存在だ。高圧ターボ2基+低圧ターボ2基の構成で、400ps/760Nmという途轍もないパフォーマンスを発揮した。
しかし、Euro 6d規制に対応できず、2020年に生産終了。代わりにBMWが選んだのが48V MHEVとツインターボの組み合わせだ。M340dは350ps/730Nmを発揮し、電動アシストにより低回転トルクも向上している。
メルセデス・ベンツ OM656|静粛性と排ガス浄化の極致
設計思想:「Sクラスに載せられるディーゼル」
OM656の開発目標は明確だった。「ガソリンエンジンと同等の静粛性を持つディーゼル」。Sクラスのフラッグシップに搭載されることを前提に、NVH性能を徹底的に追求している。
技術的なポイント
- M256(直6ガソリン)と基本設計共有:モジュラーコンセプト。シリンダーピッチ90mm統一
- スチールピストン:熱膨張率がアルミの約1/3。ピストンクリアランスを詰めてディーゼルノック低減
- NANOSLIDEコーティング:シリンダー壁面にカーボンスチールをプラズマ溶射。フリクション40%以上低減
- 2ステージターボ:小ターボ側がVGT(可変ジオメトリー)。レスポンスと高出力を両立
- ピエゾインジェクター 2500bar:極めて精密な燃料噴射制御
- カムトロニック(排気側):可変バルブリフト。冷間始動性向上とEGR制御
- sDPF:SCRコーティング付きDPF。排ガス浄化経路を短縮
スチールピストンという選択
OM656の最大の特徴は、スチールピストンの採用だ。アルミピストンと比較して約30%重いが、熱膨張率が低いため、ピストンとシリンダーのクリアランスを極限まで詰められる。
これにより、冷間時のピストンスラップ音(ディーゼル特有のカラカラ音)を劇的に低減している。実際、S400dのアイドリングは驚くほど静かで、「本当にディーゼルか?」と疑うレベルだ。
スチールピストンのメリット
- 熱膨張率が低い → ピストンクリアランス縮小 → ディーゼルノック低減
- 高温強度が高い → 圧縮比15.5でも十分な耐久性
- 熱伝導率が低い → 燃焼室温度が上がりやすく、NOx低減に有利
スチールピストンのデメリット
- 重い → 慣性質量増加 → 高回転での出力を伸ばしにくい
- コストが高い → アルミピストンの約1.5~2倍
2ステージターボとカムトロニック
OM656のもう一つの特徴が、2ステージターボだ。小ターボと大ターボを運転状況に応じて使い分けることで、低回転から高回転まで途切れないトルクを実現している。
特筆すべきは、小ターボ側にVGT(可変ジオメトリーターボ)を採用している点だ。これにより、低回転域でのレスポンスが大幅に向上している。
また、排気側カムトロニック(可変バルブリフト)も独自技術だ。冷間始動時に排気バルブを吸気行程中に再開放し、高温の排気ガスを燃焼室に取り込むことで、始動性を向上させている。マツダのSKYACTIV-Dと同じアプローチだが、ベンツは排気側のみに限定することでコストを抑えている。
OM656M(2023年〜)|48V ISGの本格導入
2023年からGLE、GLSに搭載されているOM656Mは、48V ISG(インテグレーテッド・スターター・ジェネレーター)を標準装備している。
ISGはトランスミッションハウジングに組み込まれた一体型で、最大200Nmのアシストトルクを発揮。エンジン停止・再始動が極めてスムーズで、ショックはほぼゼロ。OM654M(4気筒)と同じく、電動化が進んでいる。
決定的な違い|工学的に見た両者の比較
1. 設計思想の違い
| 項目 | BMW B57 | ベンツ OM656 |
|---|---|---|
| 最優先事項 | モジュラー設計とコスト効率 | 静粛性と排ガス性能 |
| ピストン材質の選択 | アルミ(軽量化重視) | スチール(NVH重視) |
| 高回転性能 | やや有利(軽量ピストン) | 制限される(重量ピストン) |
| 冷間時NVH | 普通(ディーゼルらしい音) | 極めて優秀(ほぼ無音) |
| コスト | 相対的に安価 | 高コスト |
2. トルク特性の違い
スペック表を見ると、OM656のトルクバンドが圧倒的に広い。700Nmを1200~3200rpmという広範囲で発生させるのは、2ステージVGTターボの賜物だ。
一方、B57はツインターボでも1750~2750rpm(M340d)とやや狭い。ただし、48V MHEVのアシストにより、実用域でのトルク感は十分以上だ。
3. 重量とハンドリングへの影響
BMW B57:軽量設計により、X5でも優れたハンドリング性能を実現。フロント重量配分も良好。
ベンツ OM656:スチールピストン、2ステージターボなどで重量増。Sクラスのようなショーファーカーには問題ないが、スポーツ性能では不利。
4. 排ガス浄化の考え方
両社ともEuro 6d-ISC-FCMに対応しているが、アプローチが異なる。
BMW:尿素SCRとDPFを別々に配置。メンテナンス性重視。クワッドターボは排ガス規制で終了。
ベンツ:sDPF(SCRコーティング付きDPF)でエンジン直結。浄化経路を短縮し、触媒の早期活性化。技術的に先進的だが、高コスト。
結局、どちらが”工学的に上”なのか?
答えは、「目的による」だ。
工学的評価
モジュラー設計と生産効率:BMW B57の圧勝
4気筒と共通化し、開発費・生産コストを大幅削減。工学とビジネスの完璧な融合。
静粛性とNVH性能:ベンツ OM656の圧勝
スチールピストン、NANOSLIDEコーティング、2ステージVGTターボ。ディーゼルエンジンの静粛性の極致。
レスポンスとスポーツ性能:BMW B57がやや有利
軽量アルミピストンにより、高回転まで軽快に回る。M340dは「速いディーゼル」として完成度が高い。
トルクバンドの広さ:ベンツ OM656がやや有利
1200~3200rpmという圧倒的に広いトルクバンド。実用性では最強。
将来性(電動化対応):互角
両社とも48V MHEVを展開。OM656Mは48V ISG標準化で一歩リード。
選ぶべきエンジンはどちらか?
BMW B57を選ぶべき人
- X5、X6など、ディーゼルSUVでもスポーツ性能を求める
- M340d、M440dなど、「速いディーゼル」を楽しみたい
- 軽快なハンドリングと俊敏なレスポンスを重視
- ディーゼル音は「エンジンの個性」として許容できる
ベンツ OM656を選ぶべき人
- Sクラス、Eクラスなど、ラグジュアリーセダンに乗る
- 「ディーゼルだと気づかれたくない」静粛性を求める
- 低回転から高回転まで途切れないトルクを重視
- ショーファーカーとしての完成度を最優先
まとめ|直6ディーゼルの到達点
BMW B57とメルセデス・ベンツ OM656。どちらも直列6気筒ディーゼルの最高峰だが、辿り着いた答えは全く異なる。
B57は「モジュラー設計と効率性」を追求し、スポーツ性能とコストパフォーマンスを両立させた。一方、OM656は「静粛性と排ガス性能」のために重量増もコスト増も許容し、ラグジュアリーカーとしての完成度を極めた。
どちらが「上」かは、あなたが車に何を求めるかで決まる。しかし、一つ言えるのは、どちらも工学的に正しい選択だということだ。
次にディーラーで試乗するときは、ぜひエンジンの違いを意識してみてほしい。アイドリングの静かさ、アクセルレスポンス、トルクの出方。すべてに、設計思想が表れている。

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