BMW B47 vs ベンツ OM654 vs アウディ 40TDI|設計思想の決定的な違い
ドイツ御三家の2.0L直列4気筒ディーゼルエンジン。スペック表を見ると、どれも「190~204馬力、400Nm前後」と似たような数値が並ぶ。しかし、エンジニアとして中身を見れば、設計思想は全く異なる。
BMW B47は「モジュラー設計と軽量化」、メルセデス・ベンツ OM654は「静粛性と排ガス浄化」、アウディ EA288 evoは「効率性とコスト最適化」。同じ目的地に向かっていても、選んだ道は三者三様だ。
この記事では、自動車エンジニアの視点から、3つのエンジンの技術的な違いを徹底解説する。
基本スペック比較|数値の裏にある設計思想
| 項目 | BMW B47 | ベンツ OM654M | アウディ EA288 evo |
|---|---|---|---|
| 排気量 | 1,995cc | 1,949cc | 1,968cc |
| ボア×ストローク | 84.0mm × 90.0mm | 82.0mm × 92.3mm | 81.0mm × 95.5mm |
| 最高出力 | 140kW (190ps) / 4000rpm | 147kW (200ps) / 3800rpm + 48V ISG |
150kW (204ps) / 3800-4200rpm |
| 最大トルク | 400Nm / 1750-2500rpm | 440Nm / 1800-2800rpm + ISG 208Nm |
400Nm / 1750-3000rpm |
| ブロック材質 | アルミニウム | アルミニウム | アルミニウム |
| ピストン材質 | アルミニウム | スチール | アルミニウム |
| ハイブリッド | 一部48V MHEV | 48V ISG (標準) | 12V BAS |
| 搭載車種例 | 320d, X3 20d, 120d | C220d, E220d, GLC220d | A4 40TDI, A6 40TDI |
BMW B47|モジュラー設計と軽量化を追求
設計思想:「1気筒500cc」のモジュラー戦略
BMW B47の最大の特徴は、B38(3気筒)、B48(4気筒ガソリン)、B58(6気筒ガソリン)、B57(6気筒ディーゼル)と共通のモジュラー設計だ。1気筒あたりの排気量を約500ccに統一し、ボアピッチを91mmで揃えることで、生産効率とコスト削減を実現している。
技術的なポイント
- ボア径84.0mm:ガソリンエンジンB48(82.0mm)より2mm大きい。ディーゼルの高圧縮比に対応
- アルミブロック + アルミピストン:軽量化を最優先。エンジン重量は約160kg
- シングルターボ(標準)/ ツインターボ(高出力版):モデルにより過給方式を使い分け
- 200MPa / 250MPa インジェクター:標準版と高出力版で噴射圧を変更
BMWが狙ったもの:「駆け抜ける歓び」をディーゼルでも
BMWは伝統的にレスポンスの良さと軽快な吹け上がりを重視する。B47でも、アルミピストンを採用することで慣性質量を削減し、ディーゼルながらガソリンエンジンに近いフィーリングを目指している。
一方で、この軽量化最優先の設計はNVH(騒音・振動・ハーシュネス)ではベンツに劣る。アルミピストンはスチールピストンと比較して熱膨張率が高く、クリアランス確保のため低温時のディーゼルノックがやや大きい。
メルセデス・ベンツ OM654M|静粛性と排ガス浄化の極致
設計思想:「Sクラスに載せられるディーゼル」
OM654シリーズは、メルセデス・ベンツが「ディーゼルでもSクラスに搭載できる静粛性」を目標に開発したエンジンだ。OM654M(Mはモディファイドの意味)では、さらに48V ISG(インテグレーテッド・スターター・ジェネレーター)を組み合わせ、電動化も進めている。
技術的なポイント
- スチールピストン:熱膨張率がアルミの約1/3。ピストンクリアランスを詰められるため、低温時のディーゼルノックを大幅に低減
- NANOSLIDEコーティング:シリンダー壁面にカーボンスチールをプラズマ溶射。フリクション大幅低減
- sDPF(SCRコーティング付きDPF):排ガス浄化経路を短縮し、触媒の早期活性化を実現
- 48V ISG(ミッション一体型):エンジン停止・再始動が極めてスムーズ。最大208Nmのアシストトルク
- 12mmオフセットクランク:ピストン側圧を低減し、フリクション削減とNVH改善
ベンツが狙ったもの:「ディーゼルと気づかせない」
OM654Mの開発目標は明確だ。「乗員がディーゼルエンジンだと気づかないレベルの静粛性」。実際、C220dやE220dに乗ると、アイドリング時の振動や音は驚くほど小さい。
これを実現しているのがスチールピストンだ。アルミピストンより約30%重いが、熱膨張率が低いため、ピストンとシリンダーのクリアランスを0.01mm単位で詰められる。これにより、冷間時のピストンスラップ音(ディーゼル特有のカラカラ音)を劇的に低減している。
ただし、この設計はエンジン単体で約180kgとやや重い。BMWのようなフロント50:50の重量配分は難しく、C220dはフロントヘビーな傾向がある。
アウディ EA288 evo|効率性とコスト最適化の妙
設計思想:「VWグループ全体での最適化」
アウディの40TDIに搭載されるEA288 evoは、フォルクスワーゲングループ全体で使用される戦略的エンジンだ。VWパサート、シュコダ、セアトなど、複数ブランドで共有されることを前提に開発されている。
技術的なポイント
- アルミブロック + アルミピストン:BMWと同じく軽量化を重視
- 8穴ソレノイドインジェクター:パイロット/メイン/ポスト噴射を緻密に制御
- 12V BAS(ベルト駆動式オルタネータースターター):コスト重視。48Vより安価だが、アシスト力は小さい(最大60Nm)
- 可変タービンジオメトリターボ:低回転から高回転まで幅広いトルクバンド
- 軽量化設計:エンジン本体重量は先代EA288から約20kg軽量化
アウディが狙ったもの:「バランスの良さとコスト競争力」
EA288 evoの最大の特徴は、性能・コスト・生産性のバランスだ。BMWのような徹底した軽量化でもなく、ベンツのような高コストな静粛性追求でもない。「十分に良い」を目指した設計と言える。
12V BASは48V ISGと比較してアシスト力が小さいが、コースティング走行(55~160km/h)とアイドリングストップには十分機能する。システムコストを抑えつつ、燃費改善効果は確保している。
また、縦置き・横置き両対応の設計も特徴だ。A4/A6では縦置き、VWパサートでは横置きと、プラットフォームに応じて柔軟に対応できる。
決定的な違い|3つのエンジンを比較して見えるもの
1. 軽量化へのアプローチ
| メーカー | 重量(推定) | 軽量化手法 |
|---|---|---|
| BMW B47 | 約160kg | アルミブロック + アルミピストン、モジュラー設計 |
| ベンツ OM654M | 約180kg | アルミブロック + スチールピストン、NANOSLIDE |
| アウディ EA288 evo | 約165kg | アルミブロック + アルミピストン、先代から20kg削減 |
BMWは軽量化を最優先し、ハンドリング性能に直結させている。ベンツは静粛性のために重量増を許容。アウディはその中間を狙った。
2. 静粛性へのアプローチ
BMW:遮音材と防振マウントで対処。エンジン本体の静粛性はそこそこ。
ベンツ:スチールピストン、オフセットクランク、48V ISGで根本から静粛性を追求。冷間時のディーゼルノックが最も小さい。
アウディ:8穴インジェクターによる多段噴射で燃焼音を低減。コストを抑えつつ、実用十分なレベル。
3. ハイブリッド化の戦略
BMW:一部モデルで48V MHEV。基本はディーゼル単体で完結させる方針。
ベンツ:48V ISGを標準化。エンジン停止・再始動の快適性を徹底追求。ミッション一体型で効率的。
アウディ:12V BAS。コスト重視で必要十分な機能を確保。将来的に48V化の可能性あり。
4. 排ガス浄化の考え方
3社ともEuro 6dに対応しているが、アプローチが異なる。
BMW:尿素SCRとDPFを別々に配置。メンテナンス性重視。
ベンツ:sDPF(SCRコーティング付きDPF)でエンジン直結。浄化経路を短縮し、触媒の早期活性化を実現。技術的に最先端だが、高コスト。
アウディ:BMW同様、SCRとDPFを分離。VWグループ全体で共通化することでコスト削減。
結論|どのエンジンが「優れている」のか?
3つのエンジンに優劣はない。設計思想が違うだけだ。
こんな人にオススメ
BMW B47(320d)を選ぶべき人:
- 「駆け抜ける歓び」を重視
- ハンドリング性能とステアリングレスポンスを最優先
- ディーゼル音は「エンジンの個性」として許容できる
ベンツ OM654M(C220d)を選ぶべき人:
- 静粛性と快適性を最優先
- 「ディーゼルだと気づかれたくない」
- エンジン停止・再始動のショックが許せない
アウディ EA288 evo(A4 40TDI)を選ぶべき人:
- バランスの良さを求める
- コストパフォーマンスを重視
- 「十分に良い」で満足できる
まとめ|設計思想を知れば、選び方が変わる
カタログスペックだけ見れば、3つのエンジンは大差ない。しかし、中身を知れば、まったく違うエンジンだとわかる。
BMWは「運動性能」、ベンツは「静粛性」、アウディは「バランス」。どれが正解かは、あなたが車に何を求めるかで決まる。
次にディーラーで試乗するときは、ぜひエンジンの違いを意識してみてほしい。アイドリングの音、アクセルレスポンス、エンジン停止・再始動のフィーリング。すべてに、設計思想が表れている。
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