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なぜアウディだけがクワトロを作れるのか?|機械式4WDが電子制御に勝つ理由






なぜアウディだけがクアトロを作れるのか?|機械式4WDが電子制御に勝る理由


なぜアウディだけがクアトロを作れるのか?|機械式4WDが電子制御に勝る理由

📝 駆動方式比較
🏷️ アウディ / BMW / メルセデス・ベンツ / 4WD
⏱ 読了時間:約20分

「クアトロ」——この言葉は、アウディのアイデンティティそのものだ。

1980年、アウディはフルタイム4WDを搭載した「Ur-Quattro」で世界を驚かせた。舗装路、泥道、雪道——あらゆる路面でWRC(世界ラリー選手権)を23回制覇し、4WDの概念を根本から覆した。

しかし、なぜアウディだけが「クアトロ」にここまでこだわるのか? BMWの「xDrive」、メルセデスの「4MATIC」とは何が違うのか? そして、機械式ディファレンシャルが電子制御に勝る理由とは?

この記事では、ドイツ御三家の4WD技術を、設計思想から徹底比較します。

目次

1. クアトロ誕生の衝撃:1980年

クアトロの歴史を語る前に、1980年当時の4WDの常識を知る必要がある。

1980年以前:4WD = オフロード専用

当時、4WDは「悪路走破のためのパートタイム式」が主流だった。

  • パートタイム4WD:必要な時だけ手動で4WDに切り替える
  • 用途:泥道、雪道などの悪路専用
  • 舗装路では使えない:タイトコーナーブレーキング現象(前後輪の回転差で駆動系が破損)が発生
  • 乗用車には不向き:重い、燃費が悪い、曲がらない(強いアンダーステア)

つまり、4WDはジープのような軍用車・オフロード車専用であり、スポーツカーや乗用車には無縁の技術だった。

1980年:Ur-Quattro(初代クアトロ)誕生

1980年のジュネーブ国際モーターショー。アウディは世界を驚愕させる車を発表した。

Ur-Quattro(ウア・クアトロ)

スペック:

  • 2.1L 直列5気筒ターボ
  • 147kW(200ps)
  • フルタイム4WDシステム搭載
  • ベベルギア式センターデフ + マニュアルデフロック

革新性:

悪路専用だった4WDを、舗装路でのスポーツ走行に使った初めての乗用車。

WRCでの圧倒的支配

Ur-Quattroは、1981年にWRC(世界ラリー選手権)に参戦。わずか2戦目で初優勝を飾った。

  • 1981-1986年:WRCで23回優勝
  • 1982年:マニュファクチャラーズチャンピオン獲得
  • 1985-1987年:パイクスピーク・ヒルクライムで3連覇

泥道、雪道、舗装路——あらゆる路面でライバルを圧倒した。4WDの「曲がらない」という常識を覆したのだ。

2. クアトロの核心:トルセンディファレンシャル

1986年、アウディはクアトロをさらに進化させた。それがトルセン(Torsen)ディファレンシャルだ。

トルセンディファレンシャルとは?

トルセンは「Torque Sensing(トルク感知式)」の略。機械式でトルクを自動配分する革新的なディファレンシャルだ。

トルセンの仕組み

構造:ウォームギア

ウォームギア(ねじ状の歯車)を使い、トルクの流れを物理的に制御。

基本配分:50:50

通常走行時は、前後輪に均等にトルクを配分。

可変範囲:最大75%

前輪または後輪が滑り始めると、グリップのある方に最大75%のトルクを配分。

反応速度:瞬時

機械式なので、電子制御のような遅延が一切ない。タイヤが滑る瞬間に、物理法則で自動的にトルクが移動する。

なぜ機械式が優れているのか?

電子制御4WDの弱点:

1. センサーで滑りを検知 → 2. ECUで計算 → 3. アクチュエーターで制御

この間にわずかな遅延が発生する。

トルセンの優位性:

滑りが発生した瞬間に、物理的にトルクが移動。遅延ゼロ。

コーナーの真っ最中、加速Gがかかっている瞬間——電子制御では間に合わないタイミングでも、トルセンは即座に反応する。

3. クアトロの2つの顔:縦置き vs 横置き

実は、「クアトロ」と一口に言っても、エンジンの搭載方法で全く異なるシステムが使われている。

縦置きエンジン用クアトロ:2つの世代

A5、A6、A7、A8、Q5、Q7など、中型以上のモデルに搭載。ただし、最新世代では大きな変化が起きた。

従来型クアトロ(〜2015年頃)

方式:トルセンデフ or プラネタリーギア式センターデフ

基本配分:前40:後60(リア寄り)

可変範囲:前15〜70:後85〜30

特徴:常時4輪駆動、遅延ゼロの機械式制御

これが「真のクアトロ」と呼ばれるシステム。40年間守られてきた哲学だ。

Ultra quattro(2016年〜、最新世代)

初搭載:2016年 A4 allroad quattro

方式:電子制御AWDクラッチ(センターデフなし)

基本配分:FF(前100:後0)

4WDモード:前後可変配分

特徴:高速巡航時はプロペラシャフトを切断してFF化、燃費優先のオンデマンド式

仕組み:

  • フロント:トランスミッション出力軸のマルチプレートクラッチでプロペラシャフトを切断
  • リア:デフ内蔵のデカップリングクラッチも切断
  • 結果:リアドライブトレイン全体が駆動から切り離される
  • 効果:燃費改善約9%、重量約4kg軽量化

⚠️ 重要:Ultra quattroは従来のクアトロとは根本的に異なる。センターデフを持たず、常時4WDでもない。燃費規制対応のため「オンデマンド式」に変更された。

Ultra quattroへの評価:

燃費性能は向上したが、「センターデフを持たないquattro」として賛否両論。

「クアトロの純粋性が失われた」という批判もあるが、アウディは「必要時には即座に4WD化する予測制御」で対応。トラクション性能は損なわれていないと主張する。

最新のA5(2025-)もUltra quattroを採用しており、これが今後の主流になる可能性が高い。

横置きエンジン用クアトロ

A1、A3、TT、Q2、Q3など、小型モデルに搭載。

ハルデックス カップリング

方式:電子制御式油圧多板クラッチ

基本配分:前95:後5(FFベース)

可変範囲:前50〜100:後0〜50

特徴:オンデマンド式、前輪スリップ時に後輪駆動

これは厳密には「スタンバイ式4WD」。通常はFFとして走行し、必要な時だけ後輪に駆動力を配分する。

⚠️ 重要な違い:

縦置き従来型クアトロ = 真のフルタイム4WD(常に4輪駆動)

縦置きUltra quattro = オンデマンド式4WD(普段はFF、2016年〜)

横置きエンジン用クアトロ = オンデマンド式4WD(普段はFF)

同じ「クアトロ」でも、世代とレイアウトで全く違う

4. BMW xDrive:FRの延長線上にある4WD

BMWは「駆け抜ける歓び」を掲げるFR専業メーカーだった。そんなBMWが開発した4WDが「xDrive」だ。

xDriveの設計思想

BMWにとって、4WDは「FRのハンドリングを損なわないための補助システム」だ。

xDriveの構造

方式:電子制御式多板クラッチ

基本配分:前40:後60(FR寄り)

可変範囲:前0〜50:後50〜100

制御:DSC(ダイナミック・スタビリティ・コントロール)と連携

xDriveの特徴

  • 先読み制御:車速、ステアリング角、横G、ブレーキ圧などから「次に何が起きるか」を予測
  • FRフィーリングの維持:通常時は前0:後100でFRとして走行可能
  • アンダーステア補正:アンダーステアが出そうな時は後輪トルクを増やして修正
  • オーバーステア補正:オーバーステアが出そうな時は前輪トルクを増やして安定化

BMWの哲学:

4WDは「安全装置」であり、「駆け抜ける歓び」を損なってはいけない

→ 普段はFRとして走り、危険な時だけ4WDが介入する

5. メルセデス 4MATIC:安全性最優先

メルセデス・ベンツの4WDシステム「4MATIC」は、安全性とトラクションを最優先する。

4MATICの多様性

4MATICは、車種によって全く異なるシステムを採用している。

縦置きエンジン用(Cクラス、Eクラス)

方式:FRベース + クラッチで前輪引き込み

基本配分:可変(状況に応じて最適化)

特徴:後輪駆動の感覚を残しつつ、必要時に前輪を使う

横置きエンジン用(Aクラス、GLAクラス)

方式:FFベース + 後輪多板クラッチ

基本配分:前100:後0(FFベース)

特徴:前輪スリップ時に後輪に最大50%配分

AMG 4MATIC+(高性能モデル)

方式:後輪に2つのクラッチパック搭載

基本配分:可変

特徴:左右後輪で独立したトルク制御(トルクベクタリング)

4MATICの哲学

メルセデスの考え方:

「最高のトラクションと安全性」を追求。

→ スポーツ性よりも、確実に止まる・曲がる・加速することを優先

6. ドイツ御三家4WD:徹底比較

項目 アウディ クアトロ BMW xDrive メルセデス 4MATIC
方式 機械式センターデフ(縦置き従来型)
電子制御クラッチ(Ultra/横置き)
電子制御多板クラッチ FR/FFベースで異なる
基本配分 前40:後60(縦置き従来型)
前100:後0(Ultra/横置き)
前40:後60 可変(車種による)
可変範囲 前15〜70:後85〜30(縦置き従来型) 前0〜50:後50〜100 車種により異なる
反応速度 瞬時(機械式)
高速(Ultra)
高速(電子制御) 高速(電子制御)
設計思想 常時4輪駆動でトラクション最大化(従来型)
燃費優先(Ultra)
FRフィーリング維持 安全性とトラクション優先
ブランドDNA クアトロ = アウディの象徴 駆け抜ける歓び(FR重視) 最善か無か(安全重視)
得意な路面 あらゆる路面(WRC実績) ワインディング+雪道 高速+悪天候

7. なぜアウディだけがクアトロにこだわるのか?

理由①:縦置きFFレイアウトの歴史

アウディは1960年代から「縦置きFF」を採用してきた。この独特なレイアウトが、クアトロ開発の土台になった。

縦置きFFの特徴

  • エンジンが前車軸より前に配置される → フロントヘビー(重量配分56:44)
  • トランスミッションの後ろにプロペラシャフトを繋ぎやすい
  • 4WD化が容易(FFから4WDへの改造が簡単)

BMWやメルセデスはFR(後輪駆動)だったため、4WD化には大きな設計変更が必要だった。しかしアウディは、FFから4WDへの移行がスムーズだった。

理由②:WRCでの成功体験

1981-1986年のWRCでの圧倒的成功は、アウディにとってクアトロ = ブランドの象徴という認識を植え付けた。

2012年:ル・マン24時間レース

Audi R18 e-tron quattro(ハイブリッド + クアトロ)が、ハイブリッド車として初優勝

2014年:ル・マン通算13回目の優勝

クアトロ搭載車での勝利。

クアトロは、アウディのモータースポーツDNAそのものなのだ。

理由③:4WD = アウディのアイデンティティ

BMWは「駆け抜ける歓び(FR)」、メルセデスは「最善か無か(安全)」——では、アウディは?

アウディ = 「技術による先進(Vorsprung durch Technik)」

その最たる例が、クアトロだ。

アウディにとって、クアトロは単なる駆動方式ではない。ブランドの存在理由なのだ。

8. クアトロの弱点:フロントヘビー

クアトロにも弱点はある。それが重量配分だ。

フロントヘビーの問題

アウディの縦置きFFレイアウトは、エンジンが前車軸より前に配置される。その結果:

  • 重量配分:前56:後44(BMW 50:50に対して不利)
  • アンダーステア傾向:コーナリング時に曲がりにくい
  • 「ノーズヘビー」批判:BMWファンからよく指摘される

アウディの解決策

しかし、アウディはこの弱点をクアトロと電子制御で補っている

対策1:クアトロのトラクション

4輪すべてにトルクを配分することで、アンダーステアを強力なトラクションで打ち消す。

対策2:ESC(横滑り防止装置)との統合

1000分の数秒でトルク配分を変え、姿勢を崩さずに走行。

対策3:quattro Sport Differential(RSモデル)

後輪左右で独立したトルク制御により、旋回性能を向上。

BMWほどピュアなハンドリングではないが、どんな路面でも速く走れる——それがクアトロの強みだ。

9. 電動化時代のクアトロ:e-tron quattro

電気自動車の時代、クアトロはどう進化するのか?

e-tron quattroの仕組み

アウディの電気自動車「e-tron」シリーズには、電動版クアトロが搭載されている。

e-tron quattroの構造

フロント:1つの電気モーター

リア:2つの電気モーター

合計出力:370kW(503ps)

トルク:800Nm超

機械式のセンターデフは不要。電気モーターで直接トルクを制御できる。

e-tron quattroの優位性

  • 反応速度がさらに向上:電気モーターは瞬時にトルクを変更可能
  • トルクベクタリング:後輪左右で独立制御
  • 回生ブレーキ統合:減速時もトルク配分を最適化

10. どのシステムが優れているのか?

答え:「目的による」

アウディ クアトロが向いている人

  • あらゆる路面で速く走りたい:雪道、泥道、雨天でも安心
  • トラクション重視:加速時の安定性が欲しい
  • 4WDのアイデンティティが好き:クアトロのヤモリマークに憧れる
  • 常時4輪駆動の安心感:普段からフルタイム4WDで走りたい(従来型)

BMW xDriveが向いている人

  • FRのハンドリングが好き:普段はFRとして走りたい
  • スポーティな走りを重視:ワインディングで楽しみたい
  • 雪道対策が主目的:普段はFR、冬だけ4WD
  • BMWのブランドが好き:駆け抜ける歓びを損ないたくない

メルセデス 4MATICが向いている人

  • 安全性最優先:確実に止まる・曲がる・加速する
  • 悪天候での安心感:雨天、雪道での高速走行
  • 高速巡航が多い:アウトバーンを安定して走りたい
  • メルセデスのブランドが好き:最善か無かの哲学に共感

まとめ

  • クアトロの歴史:1980年Ur-Quattro誕生、WRCで23勝、4WDの概念を覆した
  • トルセンディファレンシャル:機械式で瞬時にトルク配分、遅延ゼロ
  • 2つのクアトロ:縦置き従来型(常時4WD)、Ultra quattro(オンデマンド式、2016〜)、横置き(オンデマンド式)
  • BMW xDrive:FRフィーリング維持、先読み制御、前0〜50:後50〜100
  • メルセデス 4MATIC:安全性優先、車種で異なるシステム
  • アウディの哲学:クアトロ = ブランドアイデンティティ、技術による先進
  • フロントヘビーの弱点:重量配分56:44、トラクションでカバー
  • 電動化:e-tron quattro、電気モーターで直接制御

「クアトロ」は、アウディの技術思想そのものだ。

1980年、誰もが「4WDは曲がらない」と信じていた時代に、アウディはWRCを23回制覇し、その常識を覆した。

機械式ディファレンシャルは、電子制御よりも遅延が少ない。常時4輪駆動は、オンデマンド式よりもトラクションが高い。

ただし2016年以降、Ultra quattroという燃費優先のオンデマンド式も登場した。クアトロの哲学は少しずつ変化している。

もしあなたが次にアウディに乗る機会があれば、雪道や雨天時にアクセルを踏んでみてほしい。

地面に吸い付くような安定感——それが、40年以上磨き続けられてきたクアトロの真髄だ。


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